八卦掌の特徴

 

1、単重と双重

 

 走圏の時は、双重になってはいけない。単重であるべきです。双重とは両足が地面についている事で、太極拳などはこれを重視します。他の武術も同様で、八卦掌も技法や套路は双重で行う場合が多い。しかし、走圏は別です。走圏は速やかに重心を移動し、まさに「走」を重んじる。たとえ慢架であっても(ゆっくりと行う)、重心の移動は速やかにしなくてはいけません。両足が着くのは初心者の時のみです。身体の全体重が片足に乗るため、初心者では各注意点を守っての走圏はかなり無理があります。しかし、半年もたてば片足で全体重を支えなくてはいけません。例外はありません。そのことにより、体幹を養い。速やかな歩法と強い勁力を養います。

 

 

2、趟泥步

 

八卦掌では歩法が重要となります。尹派掌は鶴行歩、程派掌は鶏歩、梁派掌は趟泥步と、言われていますが、すべてに共通する点に平起平落があります。平起平落を二十数年前雑誌「武術」で、紹介した所、様々な方々から反論を頂きました。中には雑誌等で「聞いたこともない。」と反論した方もいました。しかし今日ではその方々も、ある方は雑誌で、ある方はビデオで、ある方はネット動画で平起平落を八卦掌の歩法の重要な秘訣として、紹介されています。

  平起平落とは、字のごとく平らに上げて(起こす)、平らに下す。(落とす)の意味です。八卦掌の歩法において、これは最重要であり、最も難しいと言えます。特に平起が難しく、中国の老大家の方でさえ、思いっきり踵が浮いている人もいます。これは前述の単重と大きな関係があり、完全に重心が前足に移動してないと平起は出来ません。踵が浮く人はまだ平起が出来ていない、言わば基礎が出来ていない事を示しています。そして平落です。平落と言ってもまっすぐに足を下すと、走圏では前進しているため、足が少し戻った感じになります。重心の移動がスムーズにはいきません。以前指導していた生徒がその指導を守り、走圏を行っていたのですが、いつも足がペタッペタッとなるのです。しかし、当時の私はその生徒に何を注意したら良いかわからず。わかった頃にはその生徒はもう退会してしまいました。とても残念な話です。

これを解決するのは、一つは寸歩を言う歩法技術と伸膝(膝を隠す)と言う技術です。この二つは八卦掌の口訣で、実際に習わなくてはわかりません。しかし、この二つを行うことで、平落は完成に近づきます。よく八卦掌の演武で足がチョコチョコしている人がいますが、これは寸歩と伸膝を知らないからと思われます。

 

3、里進外扣

 

 里進外扣は平起平落と並ぶ八卦掌の歩法の重要な秘訣です。この里進外扣も平起平落同様に雑誌で紹介した所、多くの批判を浴びました。しかし、現在は里進外扣も認められたようです。特に胡坐をかく日本人には里進外扣は難しく、私も大変苦労しました。特に高校生の時から太極拳を学んでいた関係上、里進外扣で最も重要な合膝と言う動作が、馴染めませんでした。八卦掌には、鶴行歩、鶏歩、趟泥步と言った歩法がありますが、これはすべて練功時(走圏、定式八掌)に行うもので、套路の表演時には主に自然歩を使います。これは、外部に八卦掌の核心を見せない為に他ならず。練功時の歩法は中国文化大革命終了以後、公開されました。それまで趟泥步など名前は知っていても内容の多くは秘伝とされていたのです。しかし、趟泥步も鶴行歩、鶏歩、自然歩でも共通するのが、里進外扣なのです。

  里進外扣は内側の足を邁歩で真っ直ぐに進めせ、外側の足を扣歩で内側に向けて回り込ませる事で、ここには先ほどの合膝と言う動作が重要になります。これは言葉の如く、両膝を合わせる意味で、必ず両膝と内腿はこすり合わせなくてはなりません。このことにより歩法は円滑に進み、より速く相手に到達するのです。

 

 

4、八卦掌の打撃について

 日本では一般に打撃力の強い武術は八極拳や形意拳が上げられますが、中国ではまず八卦掌が上げられます。私の留学当時八極拳は知っている人も少なく、北京では、八卦掌は特に有名でした。八卦掌では特に、董海川先師をはじめ、尹福、梁振圃、韓福順、馬貴、郭古民などは爆発力が有名で、師である馬傳旭老師も爆発力が強大と言うのは、北京の武術家の間では知らない人はいません。1990年に北京で馬傳旭老師と西安の馬賢達老師が初めて会った時も、馬賢達老師が馬傳旭老師の爆発力に舌を巻いておられたくらいです。

 八卦掌の爆発力は走圏と八大式、単躁手で養われる、螺旋勁によって繰り出されます。よく、八卦掌は戦術で、発勁(日本では発勁と言われるが、中国では爆発力と言っている。)は形意拳で養うと言う人もいますが。そもそも八卦掌と形意拳は、爆発力は異なり、形意拳は形意拳の錬法で養い、八卦掌は八卦掌の錬法で養うもので完全には別の拳術です。馬傳旭老師も形意拳は得意ですが。その形意拳は李子鳴老師に学んだのではなく、李存儀の弟子の韓藍宇老師に学んだもので、馬老師は八卦掌を学んだ後、見識を広めるため、李子鳴老師の命令で、形意拳、白猿通背拳、蟷螂拳、太極拳等を学んだそうです。

 そして、八卦の打撃は強大なだけでなく、その力はすべて暗勁で構成されています。

 

 

5,八卦掌の奧妙

 

八卦掌は中国文化局より非物質文化遺産(無形文化財)に指定される名誉に輝きました。わが師馬傳旭老師はその代表の一人として文化局に賞され証書受け取る名誉を受けました。すでに八卦掌四代目も少なくなり、80歳以上の老大家は極僅かとなりました。しかし、馬老師は老いてますます盛んとなり、最近は親友であった馮志強老師の高弟が数人馬老師の元を訪れ、馬老師の功夫に感嘆し、現在馬門下にて練習しているそうです。馬老師と馮老師は1950年代陳発科公の紹介で知り合い。以後、数十年に渡り親友でありました。以前は李子鳴老先生と陳発科公、馬老師三人でよく釣り堀に釣りに行っていた仲だったそうで、在りし日の陳発科公をよく知る人物でもあります。その他にも馬礼堂公や呉図南公、単香陵公など多く昔日の老大家を知る人でもあります。

 ここ数年の馬老師は私から見ても老いたのではなく、その功夫を大きく変化していると感じられます。八卦掌には尹派の鶴行歩、程派の鶏歩、そして梁派の趟泥步とありますが、それはあくまでも基本功です。しかし、八卦掌の歩法の奧秘は「凌空歩」にあります。しかし、その境地に至る武術家は歴代でも極僅かです。そこに至る為には、徹底的な重心移動と内功そして年齢が大切になるとの事です。80歳を半ば過ぎた馬老師の歩法はもうすでにその境地に至っています。「凌空歩」八卦掌の軽功の極致とも言えるもので、馬老師の日常の動きも若者と変わらず、老人特有の矍鑠とした所は微塵もありません。その功夫は現在世界的にも有名であり、日本にてあまり有名でないのはすべて私の至らない所としか言いようがありません。この「凌空歩」」に限らず、「八卦掌の奧妙に至るには、徹底と走圏の鍛錬と理論の理解、そして良い師のもとで長く鍛錬し、その師の動きの中の風格を学び取り、それを自分の物としていく事が重要だ。」と、20数年前馬先生が仰っておられた。そして、「八卦掌に限らず、その師によって到達点は変わってくる、良い師に巡り合えば到達点は高くなり、あまり良くない師につくと到達点は自ずと低くなる。同じ名声が高くとも、基準の低い老師もいる。名声や套路の数に頼ってはいけない。」とも、仰っておられた。

 武術の老師は、一人一人水準も特徴も違います。それは工芸の世界と同じです。同じ流派でも師によって、水準もと特徴も違います。また、ついた師の違いで弟子も変わってきます。

 よく八卦掌の特徴?など聞きますが、師によって大きく変わります。ましてや、他流派だと全く変わってきます。それが、間違っているのでは無く、それがその門下の特徴なのあり、良い所でもあるのです。しかし、欠点になることも注意しなければなりません。

 自分の師の到達点が低ければ、自ずとその弟子の到達点は低くなります。高くなることはありません。それは高い水準を知らないからに他ありません。私は幸いにも水準の高い師につくことが出来ました。だからこそ高い水準を見ることができました。しかし、私の水準はまだまだ未熟です。まだまだ、馬老師から学び取る事は山ほどあるようです。

 

 

6,八卦刀

 

 八卦掌の特徴としてまず武器が他の武術より大きい事が挙げられます。槍は大槍3.6m

 

大稈子4メートル、八卦剣1.2~1.5m、そして何より刀であります。八卦刀は小さいものでも1.2m大きいものになると2mにもなり、一般的には1.5m位が妥当と思えます。よく他流派やよく知らない人からは八卦大刀と呼ばれる事がありますが、正式に八卦門では八卦刀又は八卦単刀と呼びます。八卦大刀と言うと春秋大刀や関公大刀(関羽大刀)の事を指し、八卦掌にも大刀の套路は存在します。八卦掌の単刀法はすべてこの大きな八卦刀で行います。只、一部の系統では練習では八卦刀を使い、実践では一般の刀を使うという人もいます。ちなみに、双刀は一般の双刀を使います。

 

しかし、現在の日本の法律では八卦刀は入手困難の為、合金製やアルミ、ジュラルミンと言った銃刀法にあたらないものに限定されます。本来は鋼製のしっかりとした重量のあるものが練習になるのですが・・・。

 

八卦刀の套路で重要なのは、重量(1.5キロ~2キロ)のある刀を終始片手で操作しなくてはならなく、そのため強大な功力を得ることができます。両手持ちや片方の手を添えることはしてはいけません。

 

 

 

7、龍形掌

 

 龍形掌は龍形八卦掌とも呼び、八卦門のおいては最高位にある套路と言われています。

 

套路は八母掌と同じ、八本からなりますが、その一つ一つが単式では無く比較的長い技で構成されています。以前、馬老師の師弟である李功成先生が書籍に紹介されたのですが、すべてが半分までで構成されてした。これはわざとか、伝わっていないのかは、私にはわかりません。

 

尹派掌の六十四掌や六十四勢は単式の套路が六十四個で構成されているのに対し、龍形掌は長い套路八つで構成されています。また、一つの型は木馬の腕打で構成され、もう一つは賊腿史六(鉄腿史六)の得意技である絶不脚で構成されたりして、まさに八卦門の精粋の套路と言えます。十代の頃当時学んでいた先生に「特別だ。」と、言われ,

台湾系八卦掌の龍形掌を学んだことがあるのですが、それは全部で三十二式ありすべてがつながっている套路でした。しかし、北京で馬老師から学んだ龍形掌は全くちがい、全套を演じ終えるのが困難な位でした。それを馬老師は「全套路息切れせずに演じなくてはダメだ。」と、言われていました。

 

この套路は郭古民先師が作ったと言われますが、内容的には各派の技で構成され、腕打や絶不脚、反背錘などがあり趣深い套路です。

 

 

8,走圏とその効能と効果

 

 

走圏には、二つの側面がある。一つは技撃、技術としての効能、もう一つは武術的内功と道家的内丹の効果です。

 

まず、一つ目の技撃、技術についてですが、第一は里進外扣です。里進外扣は内側の足を真っ直ぐ出し(邁歩)、外側の足を回り込ませる。(扣歩)このことは技撃において、間合いを詰めるとき、邁歩によって相手に接近し、扣歩で螺旋勁を作る事と、急所を守り、脛を守る事が出来ます。長年走圏を行うと、その歩法が自然と身につき、強い攻撃と下半身の防御が可能となります。第二は膝を真っ直ぐ伸ばす事です。走圏を毎日行う時、膝を伸ばす事で強い蹴りを養う事が出来、下盤功を行うと脚力は更に強くなります。

 

次に二つ目の、武術的内功と道家的内丹についてですが、元々、八卦掌の走圏は道家の転天尊と言う修行法から来たと言われていますが、転天尊には里進外扣はありません。それは、転天尊の目的は道教の修行だからであり、内丹を作り、練る為だからです。もちろん走圏も円を巡る事で、内丹も育成します。そして、里進外扣によって一つは前出る推進力、もう一つは螺旋勁による変化を学び、それに付随する内功を学びます。内丹と内功の違いはまたの機会に説明したいと思っていますが。簡単に言えば、内丹は丹田を作り、それを練る事ですが、宗教的意味合いが強くあります。しかし、内功は丹田を作り練るまでは同じですが、それから全身に巡らせ、それを強化し、勁力と一致させると言う作業を行わなくてはなりません。その重要なカギが里進外扣、平起平落等と言う秘訣なのです。もし、それが無く只円を巡るだけならば、内丹を作れても、内功は完成しません。更に、先に述べたように技術的な効果も得られません。

 

また、走圏は健身的効果も大きいと言えます。もちろん、八大式(定式八掌)には様々な姿勢がありそれぞれ内臓や身体に効果が分類されています。しかし、走圏の歩法のみにも大きな健身的効果が期待できます。単純に歩くことで、歩行による効果(老化防止、転倒防止、血圧安定、血糖値調節、血行促進、新陳代謝の促進等)の他、肛門を閉め尾骨を引き上げる姿勢による腰痛の治療、防止、足の経絡の刺激による腎臓、肝臓、脾臓の三臓器への効果、緊背含胸、立身中正による肺臓、心臓への効果、沈肩垂肘による、頚椎への牽引作用と脳への血行促進などたくさんの効果が期待できます。

 

私も十代の時、別の八卦掌を学んでいましたが、その頃激しい腰痛と肩こりに悩まされていました、しかし、馬傳旭老師に学ぶようになり、その腰痛、肩こりを大きく軽減されました。正しく学べば必ず走圏は身体によい効果をもたらしますが、間違って行えば、身体には悪影響になりかねません。

 

補足ですが、八卦掌には下盤功と言うものがあります。これは単に姿勢を低くするのではなく、下盤功は特別の姿勢と要訣があり、ただ低くしすぎると膝や腰に大きな障害を持ちかねません。下盤功だけは走圏の要訣も少し違ってきます。

 

 

9,直趟鍛錬の重要性

 

八卦掌においては、円を巡る円趟鍛錬と直線で行う直趟鍛錬の二種類の練法によって構成されています。もし、八卦掌は円を巡る武術と言うならば、それは八卦掌の半分しか知らない事になります。元々、八卦門では、円を巡る内功と直線で行う外功に分けられ、実戦技術はこの直趟鍛錬に集約されています。よく、「形意拳で打法を練り、八卦掌で応用を学ぶ。」と、言う方がいますが、それは形意門であり、八卦門では直趟鍛錬で打法から技術までを学ぶのです。直趟法には、定式で行う十二式、活歩で行う二十四式、套路で行う八卦拳(三十二式)と六十四手(六十四式)にがあり、それぞれ用途が違ってきます。

 

大陸の一部の八卦掌が八卦掌と言いつつも、少林拳のような套路を演武するのを見かけますが、これは直趟法に他なりません。また、程延華先生の高弟高義盛先生の系統では後天八卦掌として直趟法を行っています。

 

特に、二十四式や六十四式では、走圏の時の歩法を直線で行う為、走圏の熟練度が大事になってきます。そのためにも、走圏はより一層大事になってくるのです。

 

直趟鍛錬においては、打法(爆発力)、散手法、移動法、功力鍛錬等、様々な訓練を行い。八卦掌の実戦技術を多く学びます。それを円趟鍛錬である老八掌等で融合し、八卦掌の技術を完成します。それ故に、直趟法は走圏の次に大事であるとも言えます。